昭和24年創業の京料理店「照月」。四代にわたり受け継がれてきた“おもてなし”の心には、いつも和傘が寄り添ってきました。雨の日には、歴代の女将が和傘を差してお客様をお見送りする。そんな風景が、そこには当たり前にありました。今回は、そんな「照月」の四代目 女将、清水綾乃さんに、和傘との出会いやその魅力、そして、暮らしの中での楽しみ方について、お話を伺いました。
「和傘は、私にとって特別というよりも“日常”の一部でした。曾祖母の代から、雨の日には和傘を差してお客様をお見送りする風景が自然とあったんです。」
そう穏やかに語る清水さん。ご自身の和傘を手にされたのは、女将に就任された年のこと。誕生日のお祝いに日吉屋の蛇の目傘が贈られました。
「上品な赤色の和紙と繊細な竹骨のシルエットが美しく、気に入っています。贈ってくださった方は、『日吉屋の傘はホンモノ。きっと女将としての品もより美しく映える』と仰っていました。」
「和傘を手にするようになってから、不思議と気持ちに余裕が生まれた気がします。就任当初は、お稽古事やお店の業務に追われる日々。加えて、“京都の料理屋であること”や、“女将とは何か”を追求しすぎるあまり、心が疲れてしまいそうな時もありました。ですが、和傘を差すと、ふっと肩の力が抜けて、“京都らしさ”や、“女将らしさ”が自然と生まれました。その頃から、お客様にもお褒めの言葉を頂くことが増えた気がします。」
一度、別の和傘を購入されたこともあったそうですが、やはり違いを感じたといいます。
「和紙の色合いや傘を広げたときの佇まいに風格がありますね。やはり丁寧に作られた和傘は格別です。」
その後、着物でのお出かけが多い清水さんに、もう一本の和傘「ryoten」が贈られます。軽くて持ち運びやすく、晴れた日には陽の光をやさしく受け止める晴雨兼用傘です。
「最近では、姪が私の姿を見て、お客様を和傘でお見送りするようになったんです。小さな手でryotenを差す姿は、本当に愛らしくて。」
お見送りされるお客様はほっこり。お食事の後も、姪御さんの可愛らしい姿にやさしい時間が流れます。
「和傘は、洋傘のように腕にかけて持つことができないため、不便だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、和傘独特の“かっぱを上にして持つ”所作は、自然と姿勢が整い、とても美しく見えるんです。」
特別に誂えた清水さんの傘には、照月のロゴと、お名前が施されています。
「骨上の名入れは、花街の方が使われるような風情があり、とても気に入っています。」
「和傘と言っても、やはり傘ですから。私は、あまり気を張りすぎず、日常の道具として自然に使うようにしています。使った後は、カッパの部分を上にして立てておくだけ。それだけでも、十分長く使えているんです。」
和紙でありながら丈夫で、少しの雨では傷まない。そして、修理して使い続けられるところも魅力だと感じていらっしゃいます。
「和傘は、金継ぎのように丁寧に直して(部分修理をして)使い続けることができる。和傘ならではの良さですね。」
「和傘は、普通の傘とは違う、特別な傘だと思います。確かに、少し不便だと感じることもあるかもしれません。でも、その所作や雰囲気そのものが”演出”となり、使う自分が特別な存在になります。私は、和傘をさしている自分が好きです。」
美しい所作で心が整い、自信が持てる。そんな “日々の暮らしや心を支えてくれる傘”を、ぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか。