伝統工芸 東京の注染
江戸時代末期に生まれた「注染(ちゅうせん)」とは、染料を生地に注ぎ染める染色技法のことです。型紙を用いて海草や粘土などのペースト状の糊で柄を防染し、重ねた生地の上面と下面から染料を注ぐことで、裏表なく生地の両面を染め上げます。注染の多くの工程は手作業で行われるため、輪郭のにじみやゆらぎなど、プリントにはない独特の味わいが生まれます。
100年紡いだ江戸の文様を新たなかたちに
丸久商店さんは100年以上もの間、”新江戸染”の名で沢山の柄や図案を生み出し、日本の芸事やお祭りに彩りを添えてきました。現在は、長年にわたり蓄積された膨大な数の型紙から柄を復刻したり、着想を得て新たなデザインを生み出したり、江戸っ子に愛された柄を、今の時代に合った新しいスタイルで提案しています。
日本の伝統技法とフランスの感性から生まれたてぬぐい
丸久商店さんとの出会いは、私がプロデューサーを務めさせていただいた「江戸東京きらりプロジェクト」(東京都主催)でした。
プロジェクトでは、フランスのデザイナーPauline Androlus氏と協働で室内装飾を目的としたてぬぐい、Echappées Bleues (エシャペ・ブルー)コレクションを開発、発表しました。Echappées Bleuesは、情緒的な色柄で装飾したてぬぐいのシリーズで、「Crépuscule(黄昏)」「Songe(夢)」「Quiétude(静寂)」「Maintenant(現在)」の4つのデザインで構成されています。
2023年1月にはフランスの国際見本市「MAISON & OBJET PARIS」でコレクションの発表を行いました。日本建築の窓や障子から着想を得た、伝統的な青色を基調に配色した手ぬぐいは、注染ならではの情緒あるにじみが魅力となり、多くの来場者を惹きつけていました。
Pauline Androlus氏の視点から、「使うこと」だけではなく、「飾ること」が目的に加わったEchappées Bleuesコレクション。壁にかかったEchappées Bleuesをじっと見つめると、静寂が広がる夢の世界を見ているような、そんな不思議な感覚に捕らわれます。てぬぐいの新たな可能性を感じる作品となりました。