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職人と職人が出会う旅
塩見団扇 / 秋田 悦克 京都府

公家文化の中で洗練された「京団扇」300年の歴史




風を送るための道具、団扇(うちわ)。古くは高松塚古墳の壁画にも描かれているように、
身分の高い人が顔を隠すために用いられていたと言われますが、その後は暑い日に涼をとるための
団扇から、かまどで焚き火をするための団扇まで、日本人の暮らしに欠かせないものとなりました。
そんな団扇の中でも、江戸時代以降、京の公家文化の中で洗練され美しい生活工芸品となったのが
「京団扇」。
大量生産品とは一線を画す優雅さが特徴です。
京都・山科に会社を構える塩見団扇もまた、その伝統を受け継ぐ老舗。
初代が戦中に綾部から京都に出てきて団扇づくりを始めたのが起源だそうです。現代表の秋田悦克さんに、京団扇の歴史について伺ってみました。





「京団扇には約300年の歴史があると言われています。幕府があった江戸に対して、京都には御所があり、西陣織のような織物や竹工、木工、漆工、襖絵などの工芸がどんどん精緻になっていった背景があります。そこで団扇も高級化していったんですね。」

宮中で使われていた団扇は、帝が褒美・恩賜品としてお使いになることもありました。絵師や蒔絵師、友禅彫刻師など、腕利きの職人が腕を振るって装飾をほどこしたそれらの団扇は、はやがて「御所団扇」と呼ばれ、座敷を飾る調度品として珍重されたと言います。





真竹と和紙と杉、そして繊細な手仕事から生まれる美

「京団扇」の特徴は、真竹の骨と和紙でつくった盤面に、孟宗竹や杉、漆塗りなどの柄をつけて仕上げているところです。
つまり骨と柄が別々なのです。現在「京団扇」を名乗ることができるのは、国産の材料を使って国内で生産したものだけ。
その製造工程は、まず冬のうちに真竹を切って、竹骨の元である「割竹」を作るところから始まります。

「割竹づくりは、竹の水分が少なく身が締まっている冬場でないとできません。切った竹は、節を落として短冊状にし、細く刻みを入れます。これを手で揉むようにすると繊維が裂けてバラけていくので、最後に厚みを1/2に削ぎます。」





ここまでできれば、あとは竹骨を1本1本切り離しながら、仮貼り用の紙の上に、放射線状に並べて貼ってゆきます。ガイド線などなくても均等にきれいに並べてゆくのが職人の腕の見せ所。ちなみに、京都では真竹の節と節のあいだしか使わないため、フラットで繊細な仕上がりになるのだとか。





「このフラットさが京団扇の身上といいますか、骨の美しさを見せることが基本理念みたいなところがありますね。次に上絵貼りですが、まず糊を薄く広げた板の上で竹骨に糊をつけます。竹骨の断面は四角形ですから、その一面にだけ糊をつけて上絵の和紙を貼るんです。和紙に一面糊を塗ってしまうと重くなり、しなやかさも失われてしまいますから。」

上絵貼りを終えた団扇は、骨に沿ってきれいに筋目をつける「念付け」という作業を行ってから、縁紙(へりがみ)を貼って盤面を仕上げます。その後、柄をつけてようやく完成。昔は割竹をつくる人、竹骨を貼る人、柄をつくる人、と細かく分業がされていましたが、近年は職人の高齢化で廃業が相次ぎ、塩見団扇でそれを引き取り内製化せざるを得ない部分が増えているといいます。


団扇の常識を塗り替えた、デザイナーとのコラボレーション

私が代表の秋田さんとお会いしたのは、私がプロデューサーを務める「あたらしきもの京都」というプロジェクトを通じてです。2018年に、まず販路開拓を目的とした「あたらしきもの京都NEXT」に参加された秋田さんは、その後、外部デザイナーと組んだものづくりに意欲を持たれ、翌年2019年に新商品開発にトライしました。

「扇風機もエアコンもなかった時代は、団扇は本当に生活必需品でしたけど、今は便利な家電に押されて使われなくなっています。先代の頃から、ノベルティとして配る団扇も手がけていましたが、それだけでは行き詰まりを感じてもいました。やはりきちんと価値を認めてお買い求めいただけるような手仕事の団扇を残していかなければ、というふうに考えたんですね。」

外部のデザイナーと組むという初めての経験から生み出されたのは、それまでの団扇の常識を覆す「角扇」。四角い形のユニークさもさることながら、アシンメトリーにずらした竹骨の配置が、上絵のデザインと相まって、まるで漫画の「集中線」のような効果を生んでいます。さらに持ち手を丸型にし、丸+四角という幾何学図形だけのミニマルスタイルに昇華させました。






「団扇づくりを全くご存じないデザイナーさんに、材料はこういうもので、製法はこうです、という説明をするところから始まったんですが、本来丸いはずの団扇を四角くしたり、縦に並んでいるはずの骨を横向きにしたり……。あ、これは面白いな、って開発中から思いましたね。」

角扇と並行して、塩見団扇からの提案で京野菜をかたどった「やさいうちわ」も制作。手に持ってあおいでよし、置いて眺めてもよし、という「デザイン団扇」は、塩見団扇に新たな風を吹き込みました。





東京ギフトショー「ベスト匠の技賞」に輝いた2年目のトライ

さらに翌年2020年にも「あたらしきもの京都」に参加された秋田さん。今度は「夏に限らず年間通じてインテリアとしても楽しめる団扇」というテーマにデザイナーと取り組みました。試行錯誤の末に完成したのが「森のうちわ」。木のシルエットをかたどった団扇には、幹と枝を模した透かしが入り、竹骨の美しさを魅せています。四季折々に色を変える木々をイメージし、裏表が色違いのリバーシブルになっているのもポイント。





「飾って楽しんでいただくために、団扇を立てて置けるスタンドもつけました。実はこれ、柄の製造業者が数年前に廃業してしまい、仕方なく機械を入れて自社で柄をつくるようになっていたのが、功を奏したんです。自分のところに材料も設備もあったからこそ、形も自由に考えてつくることができました。」

この「森のうちわ」は2021年東京ギフトショーに出品され、見事「ベスト匠の技賞」を獲得。かつて江戸時代に、飾って楽しむものとして珍重された「御所団扇」の精神が、見事にアップデートされ、現代に蘇ったものと言えるかもしれません。

「あたらしきもの京都」でのトライアルを経て、団扇をウォールデコレーションに生かすアイデアや、ランプシェードに使うアイデアなど、現在もさまざまに発想を広げている秋田さん。京団扇の伝統を次世代につないでゆく橋渡し役として、デザインが果たせる役割の大きさを感じているといいます。

「やっぱり見て、触れて、きれいだなと思っていただけるものをつくりたいですね。団扇づくりの技術から何をどう派生させていけるかということを、これからも考えていきたいです。」