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職人と職人が出会う旅
寺島保太良商店 / 寺島 大悟 京都府



約500年続く、京の金糸・銀糸づくりの伝統を受け継いで

どんな繊維も真似のできない金属光沢を放つ金糸・銀糸。最も古いところでは6世紀ごろの古墳から金糸を使った織物が発見されているほどで、今もなお日本の工芸品に欠かせない存在です。
もともとは大陸からの到来物だった金糸・銀糸が、国内でつくられるようになったのは
安土桃山時代からといわれています。
そんな金糸・銀糸づくりの老舗として、1897年創業以来120余年の歴史を守り続けているのが、京都・西陣の近くに工房を構える寺島保太郎商店。
4代目当主を務める寺島大悟さんは、西陣と金糸の関係をこんなふうに語ります。





「西陣という呼び名が生まれたのは、室町時代の跡目争いで起きた応仁の乱で、
西軍が陣を敷いたからなんですよね。乱が終わってからは町の復興で織物産業が栄えて、この辺りの織物が“西陣織”と呼ばれるようになりました。
ちょうどその頃から、武田信玄や上杉謙信など戦国武将によって、各地で金山銀山の開発が進んだために、金箔や銀箔も地場でつくられるようになったそうです。
おそらくそれが国産の金糸銀糸の始まりで、今から500年ほど前のことになります。」

寺島保太郎商店の金糸が使われているのは、西陣の高級呉服のほかに、祇園祭や岸和田のだんじりなど各地の祭りを彩る飾り幕や、相撲力士の化粧まわし、歌舞伎や能神楽の衣装など。150〜200年前につくられたものの修復を依頼されることもしばしばです。






金沢から京都へ、繊細な職人仕事をつないで

そもそも金糸・銀糸とは、金箔・銀箔を和紙に貼ってから極細に切って、芯糸の周りに巻きつけたもの。
そうひとことで言ってしまえば簡単に聞こえますが、実際には箔づくりから、箔を和紙に貼る「箔押し」工程、そして撚糸にいたるまで、熟練を要する繊細な仕事のリレーで成り立っています。
たとえば材料となる金箔・銀箔は金沢から取り寄せたものですが、これらは薄さ1万分の
3ミリ。1グラムの金を叩いて延ばして30畳ほどに広げてやっとこの薄さになるといいます。





「この箔を和紙の上に貼り付けていきますが、金属光沢をきれいに出すためには、和紙の表面に漆を塗って、ざらざらした表面を滑らかにしてやる必要があります。
この下地づくりがものすごく大事なんですが、漆というのは温度や湿度によって状態が変わる、非常に気難しい素材です。
漆がゆるすぎると、和紙に沁み込んで下地の役割を果たせないし、固すぎると乾いた時にバキバキに割れてしまって撚糸ができません。そこで最適な状態の漆をつくるのに必要なのは、やっぱり職人の勘。
漆を混ぜる時の手応え、垂らしてみた時の落ち方などから、データ化できない微妙な違いを見分ける力です。」

次に、箔押しされた和紙を裁断するのですが、その裁断幅は、つくる金糸・銀糸の太さに合わせて変えます。細いものなら0.8ミリ幅、太いものでも2ミリ幅。そして用途に合わせて芯糸の太さと素材を選び、撚糸工程に進むのです。撚糸工程では箔が裏返ったり隙間があいたりしないよう、きれいに撚りあげるのが職人の腕の見せどころです。





「金糸の束のままジュエリーにする」という大胆な
クリエーション

こうやって丹精込めてつくられる金糸・銀糸を、さまざまな工芸品の素材として提供してきた寺島さんですが、数年前から自社でも、金糸・銀糸を取り入れた雑貨やファッション小物などの商品開発もあれこれ試みていました。
そんな試行錯誤を続ける中で訪れた大きな転機が、2017年「あたらしきもの京都」への挑戦です。
「あたらしきもの京都」は、京都商工会議所とファッション京都推進協議会が、京都府の支援を受けて開催したものづくりプロジェクト。私はそのプロデューサーを委任されており、そこで寺島さんと初めての対面を果たしました。

寺島さんが持ち込んだ金糸の束を見て、アドバイザーの一人が口にしたのは、
「房になった金糸の質感をそのまま生かしたい」ということでした。
そこでシンプルに金糸を束ね、その表情を主役にしたジュエリーを試作することに。しかしそれは寺島さんにとっては思いもよらなかったことだと言います。





「正直に言ってしまうと、試作が上がってきた時に、“これでいいんですか?”って思いましたよ。でも関係者の皆さんが、“これはすごい!”“いいものができた!”と盛り上がっておられて……。僕一人ポカンとしていましたけど、要するに、僕自身が一番わかっていなかったんですよね。
今までずっとこの仕事をしてきて、金糸・銀糸は織物や刺繍、組紐の素材であって、そういうものに加工しないと価値を生めないと思い込んでいた。この糸自体に美しい表情があるということを見逃していたんだと思います。」

これは、私も職人だからよくわかる話です。大切なのは、毎日身近に触れているからこそ見過ごしがちな自分たちのものづくりの価値を、外から見た視点で再発見することです。まさに寺島さんも、この再発見のプロセスを経て、新しいジュエリーブランド
「絲 (tabane)」を立ち上げました。金糸を束ねた房が放つ光沢が美しく、そのまま真っ直ぐ使ったり、よじってみたりと使い手が自由にアレンジできるところも魅力です。
東京ギフトショーに出展したところバイヤーからの評価も上々。百貨店催事への出店も次々と決まりました。






金糸の可能性を広げる、海外デザイナーとの新しい
チャレンジ

「あたらしきもの京都」での経験は、それまで寺島さんがトライしてきたものづくりと、どう違ったのでしょうか。

「それまで見よう見まねで商品開発をしていたのと違って、バイヤーやデザイナーなど、いろんなプロの知見をいただきながら取り組めたのが一番よかったですね。
絲 (tabane)というプロダクトブランドを立ち上げられたからこそ、これまでなかった新たな分野に金糸・銀糸を“素材”として提案していける可能性も感じました。
ちょうど西堀さんに誘っていただいたこともあって、フランス人デザイナーと一緒に、金糸を生かしたインテリア装飾の開発も始めました。」

寺島さんが取り組まれたのは、私がプロデュースするプロジェクト「IOK―インスピレーションオブ京都―」(主催:京都中央信用金庫)における商品開発です。
フランス人デザイナーのセシル・グレイさんが考案したのは、金糸をタテヨコに張って市松柄を表現した壁面パネル。このアートパネルは2022年秋にフランス・パリの「メゾン・エ・オブジェ」に出品され、多くの人々から賞賛を浴びました。





「やっていることはすごくシンプルなんですけど、光の当たり方で市松柄が浮かび上がるという……この発想は僕らにはなかったなと思いましたね。
本当に、ここ何年かの経験で、金糸・銀糸自体に美しい表情があるということを教えてもらった気がします。これからは日本のみならず世界中に、“京都にこんなきれいな糸素材があるんだ”ということを知ってもらえるような取り組みをしていきたいですね。
それが日本の伝統的なものづくりを守ることにもつながると思っています。」

金糸・銀糸づくりの伝統を絶やさないこと、それが日本各地で生き続ける美しい装飾文化を支えることにつながる。そう語る寺島さんの力強い言葉が印象的でした。